「どうした、アオイ。ちゃんと食べてるか?」
隣に座っている葵と目が合い、剣助は聞いた。
宴会が始まってから幾度となく投げかけられる視線。何かを待つようでもあり、期待されているようでもあるその眼差しに、剣助はいたたまれなくなり、声を掛けた。
「えっ? あ、うん、ちゃんと食べてるよ!」
剣助の問いに葵は明らかに動揺し、慌てて目の前の椀を持つとご飯を頬張る。
「姫さん、もしかして食欲ないのか?」
葵とは対照的に、食事がはじまってから食べる速度は変わることなく、用意された料理に次々と手を出していた陽太が、案じて声をかけた。
「……ううん、そんなんじゃないよ」
葵は口の中の物を慌てて飲み込んでから首を横に振ると、淋が彼女を一瞥しつつ、
「大方、下らないことでも考えていただけだろ」
「なっ! リンてば、ひどい!」
卓に椀を置き頬を膨らませる。
「じゃあ、言ってみろよ」
「そっ、それは……その」
小さくそう言う葵は、横目で再び剣助を見る。何かを待つような彼女の視線に、剣助は少し居心地が悪くなり、手にしていた盃の酒を一気に呷った。
「さてと。オレはそろそろ〆にするか。オトヒメ、いつものを頼む」
剣助は、自分と七巳が空けた銚子を下げていた乙姫に言う。
「ちょい待ってておくれやす」
「あ、私も手伝うよ」
幾つかの空いた器を盆に載せにっこり微笑みながら店の奥へ行こうとする乙姫の後を、葵が追いかける。
「お、ケンはもう〆か。じゃあ俺は……そうだな。同じのをもう一本」
入れ違いで奥から出て来た甲姫に、七巳が手を振る。
「ナナミ兄ィも、ほどほどにな」
まだ飲むのかと少し呆れ気味に返答する甲姫だが、すぐに店の奥へと姿を消した。
「ナナミの親分もブレないっすね」
「今日は気兼ね無しに飲める機会なんだ。飲まないでどうする」
「日頃の諏訪が遠慮していたとは気づかなかった……」
「……寿さん」
そんなたわいもないやりとりが繰り広げられてからほどなくして、おにぎりを幾つか載せた皿を持って、葵が剣助の元にやってきた。
「はい、スケさん」
「ありがとな、アオイ」
剣助が手前のおにぎりを手に取り一口かじり、味わっていると、
「………………」
葵がやけにじっと剣助の顔を見つめてくる。
今度の視線は、期待と不安の入り交じったようなもので、剣助は少々食べにくいと思いながら口を動かしていた。
やがて待ちきれなくなったのか、葵が聞いていた。
「スケさん、どう?」
「どうって、おにぎりのことか? 美味いよ。塩の加減も握り具合も文句なしだ」
そういうと、剣助は最後の一口を口の中へいれた。
「ふふっ」
笑顔で答えた剣助に、今度は葵が満面の笑みを浮かべる。
「?」
「オトヒメ、やったよ〜!」
「アオイはん、良かったなぁ」
葵が乙姫の元に駆け寄ると、二人は両手を握り締め、きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいだ。
「なんなんだ、お前ら」
葵はにこにこしながら、再び剣助の元に来る。
「実はスケさんに食べて貰ったおにぎりは、私が握ったものなの。だから、スケさんの好み通りに出来たことが嬉しくて」
「お嬢は、オトヒメからケン兄ィの好みの握り方教わってたんよ」
銚子を盆に載せ店の奥から出てきた甲姫が言った。
「オレの好み?」
「剣助はんは、飲んだ〆によおうちの握るおにぎりを食べてくれはるやない」
「前にオトヒメが言ってたのを思い出して、教えて貰ったんだ」
いつ頃のことだっただろうか。だがそのような話をしたことを、剣助は確かに覚えていた。
「それで、オレの為に握ってくれたってわけか」
「うん」
そんな葵の健気さが、堪らなく嬉しいと感じて剣助の胸は熱くなる。
と同時に、何となくだが謀られた感もあり、胸中にはもやつくものも生まれていた。
「…………」
剣助は葵の腕を掴むと、ぐっと己の方に引き寄せる。
「うわっ、スケさんっ! 急に何っ?」
戸惑いの声をあげる葵。剣助は構うことなく、彼女の耳元にスッと顔を寄せると、
「それなら今日の〆には、お前が欲しいんだけど」
少し戯れめいた声音で囁く。
「今日の〆って……ちょっ、えぇっ──!?」
言葉の意味を理解したのだろう。顔を真っ赤にした葵の反応に剣助はにんまりすると、同時に染まった彼女の耳たぶを軽く啄んだ。
2014年11月9日UP
お読みくださりありがとうございます。
剣助が呑んだ〆に乙姫の握ったおにぎりを頼むというエピソードは、伊賀から戻ってきたところの選択肢で、「じゃあ、おにぎり!」と答えたときに知ることが出来ます。
乙姫の握ったものが好物なのかどうかははっきりかかれていないけど、勝手にそう解釈をしたところ、今回の小噺が生まれました。
因みに私がファーストプレイで選んだ選択肢です。色気無いなぁ(苦笑)。
タイトルは悩んで付けた結果、居酒屋のメニューで目にしてそうなものになってしまった感が…(苦笑)。
この後葵ちゃんがどうなったかは…推して知るべし。エンド後だもの、ねぇ?