【12月 上野】
──姫さんはずっとここにいて、一緒に楽しくやっていけるよなっ?
そんなこと考える必要とか──
陽太が言ったこと、それは今の葵の意思ではどうにもならないことだ。
「ずっと、というより、ある意味明日の身でさえ保証がないこと、ハッチだってわかっているはずだよね……」
右手首に宿した双葉葵。石のヒビは石本来の透明感がなくなるまで広がっていた。
これが壊れた時、自分の身に訪れるのは死かもしれないと、その恐怖に怯えたこともあった。
だが今は、陽太に二度と会うことが出来なくなるかもしれないと気付き、その事実の方が、胸に裂くような痛みを走らせた。
◆ ◇ ◆
「姫さんがいなくなる時が来ることなんてこと、とっくに考えてなかった……」
考え始めたら動かなくなる……動けなくなる。普段から七巳に言われているし、陽太自身自覚もある。葵もそのことを知っているから、陽太は慌てて彼女の部屋を出た。
自分が何を考えて気にしているかを、葵に知られたくなかった。
──葵がどこかへ行ってしまうなんてことを。
彼女がとても可愛くて、愛しくて、手で触れているだけでは足りなくて、抱きしめ、葵の鼓動を自分の身体で感じた時、陽太は思わず口づけをしていた。
それだけで幸せな気持ちになれたが、味わった感触はそれだけでは済まなかった。柔らかくて温もりもあって……そしてほんのり、
「しょっぱかった……」
思い出した陽太は、自身の唇をひとなめする。
葵の頬に触れた時──弾力があり、少し熱を帯びたその頬に、涙の跡があったことを思い出した。
どこかへ行ってしまいそうな彼女を引き止めることが出来るならと、来年の誕生日を祝う話をした。
だが、そんな計画なんて、何の保証にもならない。
願っていることは、陽太でも、葵でも、どうにもならない力の働き次第の現状。
「だったらおれっちは、おれっちがしたいことをするしかない……よなっ」
辛気くさく考えるのは……、元より考えるのは得意ではないのだ。だったら、何も考えず、ただ突っ走ればいい。
拳を握りしめ、陽太はある決意を固めた。
2012年5月4日発行『縁』の【陽太×葵】の一部です。
このような小噺を、剣助×葵、鬼格×葵、淋×葵、七巳×葵、誠司×葵の計6本収録しています。